■ 2015年7月のある金曜日の夕方 五十番にて 3
市街地の再開発によりここに移ったこともあって、長年の営業による油臭さはない。それでも焼酎のガラスコップは油くさい。
17時35分、男女二人組が入店。男女がお食事するには、それほどふさわしい場所と思えないが、常連とおぼしき高齢者夫婦も入店。
男女二人組客の女性、店内の壁に貼ってある地元出身タレントの色紙をスマホにおさめる。
【 このシリーズはマチとの遭遇九州編#久留米のなかで続く。なお、毎号続くとはかぎらない。】
マチとの遭遇 九州編
久留米/くるめ
20160101現在
■ ゴム 5
アサヒコーポレーションはブリヂストンの創業者一族が創業した会社です。
創業はアサヒコーポレーションのほうが早いものの、1998年3月に会社更生法を申請し、倒産も創業とおなじく早くむかえます。
倒産前までは、学童用の上履きを主に製造、販売しており、国内ではアキレス(本社:東京都)、ムーンスターなどコドモたちの足元を占めていました。
会社更生法申請後も事業は継続し、現在でも売上高116億円、従業員数660人の製造業であり、大企業の部類でもあります(*1)。
同社倒産の理由の一つが、上履き需要の減少です。人口が増え日本が若かった時代には、学童用の上履きは作るそばから売れていました。
少子高齢化していく日本では上履きは昔並みには売れません。
人口の構造変化に対応しなかったゆえの倒産です。
社屋と工場は歴史遺産入りにふさわしい外見です。倒産を暗示していたかのようでもあり、となりの最新鋭をほこるブリヂストンの工場にまぶしさを感じます。
高齢社会の現在、高齢者向けの製品に取り組みます。地元久留米大学部医学部と連携し製品化し、快歩主義のブランド名で販売します。
生産は学童用の上履きを生産していた工場です。
歩きやすさもあって累計販売700万足の製品となっています。コドモは少ないもののお年寄りは増える一方なので、同社の経営も"快歩”が続くことが期待されます。
*1 アサヒコーポレーション ホームページより
【 アサヒコーポレーション工場社屋 】
■ 文化街
繁華街も昭和の響きです。久留米の繁華街の名前は文化街です。
かつては3軒の映画館があり、喫茶店はサロンのようであり、その名にふさわしい街でした。現在は、わかりやすくいうと飲み屋街、名前どおりの知的な香りのする街ではありません。
当地から映画館はなくなり、週末に多少元気をみせるさびれた飲み屋街となっています。
繁華街
飲み屋街
いかがわしい街
さびれた繁華街でも数軒ほどフーゾク店はありますが、ソープランドは「ない」とされています。
近頃ではお客の来店を待つ店舗型ではなく、お客の元に出向くデリバリー型が主流となっており、久留米インターチェンジのラブホテル街は、アベノミクスが来ているといわれています。
ラブホテル街アリ
久留米には新幹線も特急も停車し、交通のアクセスに不便はありません。
不便はなくなった分、出ていかれるようになってしまったと、文化街の飲食店の店主はいいます。
地元久留米がラーメンや焼きとりなどのB級グルメで注目を集めるも夜の集客には影響はなく、客層のちがいからさっぱりとのことです。
それでも昔ながらの飲み屋が軒をならべ、頭に鉢巻をしたオヤジが黙々とヤキトリを焼く店もります。
一昔前の昭和のようでもありますが、演出された昭和ではなくリアルな昭和です。
それでも当時と現在のちがいはみられます。店内のテレビがブラウン管から液晶などの薄型に変わりましたが、基本的には同じです。
【 文化街出入り口 】
■ サケ 4
「筑後に酒はあっても久留米にはない」と、手厳しいことをおっしゃる地元の蔵元もいます。
たしかに、この表現は外れてはいません。
旧久留米市だった久留米の中心地には主だった蔵元はなく、蔵元はその久留米の中心地のはずれに点在しており、さらに久留米市を含む筑後平野に点在しています。
このあたりのよく知られた酒の銘柄に「繁桝(しげます)」、「喜多屋(きたや)」があります。
久留米の飲み屋街の居酒屋の店頭では、両銘柄ののれんがかかげられ、地元の酒として案内されていますが、両銘柄の蔵元は行政区ではとなり町、エリア的には「このあたり」といえます。
地元をどこまでの範囲とするかで地元の酒といえたり、いえなかったりします。
このあたりを表記では「筑後」、標準語では「ちくご」、音読では地元民によっては「ちっご」と発音され、TPOにあわせてさまざまな表現があります。
さらに混乱をまねくかのように「筑後市」という自治体もこの近くにあります。
【 筑後平野と久留米市さらに筑後市 】
■ B級グルメの聖地久留米 4
久留米ではヤキトリは「焼きとり」です。当地のヤキトリ屋の多くは「焼きとり」もしくは「焼とり」と表記しています。
焼きとりの食文化を全国に発信する地元の業界団体「一般社団法人久留米焼きとり文化振興会」の表記も「焼きとり」です。
ウィキペディアでの「焼き鳥」の表記
ヤキトリもしくは焼鳥
B級グルメの聖地を標榜するからにはヤキトリ1点だけではなく、複数のB級グルメアイテムをそろえておかなければなりません。
実際、ラーメン、ヤキトリ、うどん、餃子などB級感あふれる食べ物が久留米には多くあり、それらを提供する飲食店が市内に点在しています。
かわったところでは骨付きカルビがあります。カルビはたいてい牛ですが、当地では豚のほうが主流になります。
当地のB級グルメの第一人者豆津橋渡(まめづばしわたる)氏によると、久留米にあるお店の一つが、その発祥ではないかと分析しています。(*1)
当地は食べ物に関してなにかと発祥の地とする傾向があり、その信頼度はなんともいえませんが、とんこつラーメンの発祥の地ですので豚の骨付きカルビも当地発祥なのかもしれません。
*1 情報誌セカンド(201407 vol.19)、情報誌セカンドは地元久留米のフリーペーパー
【 久留米のあるヤキトリ店 】
■ クロスポイント 1
久留米には平野の中心地だけに、さまざまな"ブツ”が集まります。
さまざまな"ブツ”のなかには「血」もあります。ただし真っ当な「血」です。
地の利の良さから同地には、輸血用血液を九州7県に合理的に輸送するための施設:日本赤十字社による九州ブロック血液センターが立地しています。
2005年度末に九州・沖縄の各県血液センターを一箇所の施設に集約して血液、血漿に関する業務の安全性向上を図ろうとする決定がなされます。
検査と製剤とあわせて、それらを運ぶ仕事が発生します。しかも血液だけに"スムーズに”です。そのときの検討の要件は2つ。
- 敷地面積15,000㎡規模が必要
- 交通至便な場所かつ福岡空港から車で1時間以内の場所
検査と製剤の年間業務ボリュームから敷地面積は上記の広さが必要ということでした。
当時、血液センターは福岡市内にあり、②の要件は満たしていましたが必要敷地面積を満たさないことや住宅街にあるために業務にかかわる機器の設置に制限があるなど、不可となります。
一方、久留米市は①の要件はかるく満たし、かつ、高速道路のインターチェンジにも近く、福岡空港から車で1時間以内の場所にあることから2つの条件を満たし、同地に決定しました。
なお、同地は久留米市から無償貸与されています。
血液の輸送業務は地元運送会社の久留米運送に委託し、同社は年間60万人分の血液を当地から九州各地に運んでいます。
九州最大規模の運送会社である久留米運送は同地に立地し、売上高は386.0億円(2014年3月期)、従業員数1,407人の久留米に数少ない大企業の一つです(*1)。
*1 ㈱地域情報センター:福岡の会社情報2015年
【 日本赤十字社 】
■ ゴム 6
月と星でムーンスターです。創業は1873年(明治6年)、創業当初は足袋を販売していました。
しかし、いつまでも足袋を売ることはせず、地下足袋を開発し、その後は運動靴の分野へと事業展開します。
現在も足首からの下を覆う製品を生産していますが、運動靴から新しい製品がみられないところをみると、ダイナミックな経営の転換はされてないようです。
社名は幾度かわりますが、経営はいたって順調、現社名となるのは2006年です。
コンバースのバスケットシューズ。バッシューとも。コンバースはアメリカのシューズメーカーであり、同社はそのシューズをライセンス生産していました。
ライセンス生産はコンバース以外にも、トムマッキャン、ニューバランスなどともライセンス契約し、ライセンス生産に強みを見出します。
単に生産を受託するだけのビジネスではなく、ブランドによっては大手商社と組んで日本法人を立ち上げ、事業展開も多面的でした。
【 ムーンスター社屋 】
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