あらかぶ定食 経団連会員企業 ベース クネット・ジャパン 村上龍 事業所密度 失業率 佐世保重工業上場廃止 させぼ競輪 【 マチとの遭遇 佐世保編 その16 】
佐世保/させぼ
20150401現在
【 矢印のあたりが佐世保 】©グーグル
■ 1,500円 # あらかぶ定食
日本三大○○。ここでの○○は急潮です。西海橋から真下の海面を見下ろせば、グルグルとまわる渦潮があります。
ただ、渦潮では四国の鳴門のほうにブランド力があり、当地は渦潮だけでは人を呼ぶにはやや弱そうです。
その渦潮の上に2本の橋が架かります。西海橋と新西海橋です。佐世保市と同市の南にある西海市をつなぎます。
西海橋は1955年に開通し、完成当時は東洋一の長さを持つ橋でした。その後、西海橋の路線である国道202号線のバイパスが建設され、そのバイパスにも架橋され、西海橋と新西海橋が架かる海峡となりました。
海峡というロケーション、渦潮という名物の観光コンテンツに2012年は西海橋に年間42万人訪れています。
当地は年間200万人訪れるハウステンボスから車で10分と近く、ハウステンボスを訪れたお客をここまで引っ張ってきたいところです。
【 あらかぶ定食を出すお店の看板 】
人は自然や建造物だけで、そこに訪れようという気分にはなりません。
しかし、食べ物は訪れるインセンティブとなり、急流の好漁場である当地は海産物がそろっているのでその準備はできています。なかでもカサゴ(地元ではアラカブ)は地元の名物です。
西海橋のたもとの飲食店には、元祖アラカブのみそ汁をうたう店やアラカブのカラアゲを売りにする店が地味ながら営業しており、ささやかな人気となっています。
■ 新旧交代 # 佐世保経済界の顔
佐世保の代表的企業といえば、ながらく佐世保重工業がその地位にありました。社歴も古く、古い分、地元への貢献も大きいものです。
しかし、現在、売上高、従業員数からジャパネットたかたのほうがその地位にふさわしくもあります。
地元長崎新聞の2015年の新春ビッグ対談は
ジャパネットたかたの高田明氏
と
ハウステンボスの澤田秀雄氏
でした。
両氏はいまや地元経済界の顔でもあります。ジャパネットたかた、ハウステンボスの親会社エイチ・アイ・エスは経団連会員企業でもあります。
なお、佐世保重工業も同会会員企業でしたが、いつしか会員でなくなっています。
■ 1,484.2万ドル # ネイビーの日本人給与支払い分(2012年度)
ベースでは日本人も働いています。ベースには正面門から入り、その正面は鳥居を模したオブジェがあります。
アメリカ人には日本人への配慮はみじんもなく、同ベースの本部前の国旗を掲げるポールの足元にも鳥居の貫にベルをぶらさげたオブジェが置かれています。
アメリカ人にとって鳥居は日本を指すアイコンかもしれませんが、日本人には少々腑に落ちないのではないでしょうか。
【 正門のオブジェ? 】
ネイビーのベースでも「佐世保バーガー」が販売されていますが、ベース内にはマクドナルド佐世保基地店もあります。日本マクドナルドホールディングスのwebサイトでは「サプライズ立地」としてアルバイトを募集しています。
- 勤務地:長崎県佐世保市立神米海軍佐世保基地内
- 時給 :710円以上
ベース内には映画館、病院、教会、飲食店などもあり、ひとつの町が形成されています。町を機能させるには働く人が必要であり、ネイビーは働く機会を地元民に提供しています。
■ 90°~130°# 隣り合う軸線方向の開き角度
作家村上龍氏は佐世保出身です。作家の枠を超えてグローバルな経済を語る氏ですが、ローカリティは忘れていません。
佐世保にはクネクネした手すりを製造する会社:クネット・ジャパンがありました。同氏は同社の株主でもありました。
その製品名は「クネット」、ほぼ100%手すりとして利用されており、個人宅、病院、神社、駅の構内、役所などの階段のあるところで見かけます。
加工する技術に秘密があり、その"クネクネ”の角度は90°から130°になります。
【 クネクネした手すり 】
残念ながら先行投資が負担となり、2012年7月に自己破産となるものの、デザインの優れた社会性の高い製品は同社有志に引き継がれ、現在もクネクネした手すりは全国のみならず世界の階段のそばでみかけることができます。
株は倒産してしまえば紙切れになるだけと、身をもって経験したからなのかわかりませんが、その後(いやもっと前から)の村上氏の経済分野への進出はめざましいものがあります。
■ 3,630人 # 3年間で佐世保で働く人の減った数
民間事業所で働く人の減った数は、現在の佐世保エリア換算で3,630人になります。経済センサスでは同エリアの就業者数は以下のとおりです。
- 2012年 9万7,422人
- 2009年 10万1,052人
この間、市町村合併がありましたが、合併とともに働き口は増えることなく減り、あわせて働く人の数も減りました。
とはいってもビジネス不毛の地ではありません。事業所密度は国内平均より高く、1k㎡当たり事業所数は以下のとおりです。
- 国内 14.6事業所
- 佐世保 26.0事業所
1k㎡当たり従業者数も国内平均の1.6倍ですからビジネス過疎地とはいえません。
有効求人倍率は1倍以下となっていることから働く人が足りないわけでもありません。働き口が足りないのです。
資料出所:経済センサス
■ 7.4% # 佐世保市の失業率(2010年)
現在の佐世保市となったのは、江迎町と鹿町町を編入した2010年3月からです。2010年の国内の失業率は5.1%、長崎県全体でも6.5%と高い年でした(*1)。
なかでも佐世保市は7.4%と高く、雇用環境はよろしくありませんでした。ちなみに2010年という年は
リーマンショックから2年後、311の震災の1年前
です。当地はもともと雇用環境がいい地域とはいえず、失業率の高かった旧市町村を合併したことも佐世保市の失業率が高い理由の一つといえます。
合併前の2005年のそれぞれの町の失業率は以下のとおりです。
- 鹿町町 7.5%
- 江迎町 8.2%
鹿町町には佐世保内を縦断するように走っている松浦鉄道は走っておらず、公共の交通機関は路線バスしかありません。
その路線バスも1時間に1本程度です。町にあった国民宿舎もいつしかなくなってしまいました。
もうひとつの江迎町は、松浦鉄道が町をつきぬけるように走っており、旧役場跡は地元中心地であったことをうかがわせる町並みが残っています。
江迎町にはハローワークがあるものの失業率は常時高く、求人もそれほどありません。1973年から現在までに江迎町のハローワークで有効求人倍率が1.0倍を超えた年は1度きりです。
*1 総務省労働力調査(2005年、2010年)
■ SSK 10 # いっそのこと市営にしては
「大変驚いている」とは地元市長の言葉です。名村造船所による小会社化が発表された翌日の新聞に掲載された市長のコメントです。
株主でもあり、地元の稼ぎ頭でもある同社の情報が市長に入っていないとは思えませんが、市長は驚かれました。
地元協力会社は、発注の少なくなった同社からの発注よりも新しいオーナーからの発注を期待する声もあります。
一方、名村造船所のある伊万里の協力会社は、受注が佐世保に流れるのではと不安の声もあります。
【 佐世保重工業 】
名村造船所の小会社になったものの「佐世保重工業」という社名は残り、造船所もそのままです。それほど残したいなら、いっそのこと「佐世保市営重工業」と子会社化にあわせて社名変更してもよかったのではないでしょうか。
戦後間もない会社立ち上げの時期は、佐世保市営論もあったとのことです。
なお、佐世保重工業上場廃止の当日の1,000株あたりの株価(終値)は以下のとおりです。
- 佐世保重工業: 148円
- 名村造船所 :11,920円
■ 83億4,800万円 # させぼ競輪の年間売上高(*1)
「最近どげんね?(訳:最近、調子はどう)」。競輪場までの無料のシャトルバス内での会話です。競輪の開催日、場外車券発売日には、佐世保駅前から30分おきにシャトルバスが出ます。
一見予想屋にもみえなくもない初老の陽気な運転手は、バスに乗るお客に声をかけます。
【 させぼ競輪場 】
車内は、おおよそO-60(意味:オーバー60)のオヤジたちで満たされます。ハンチング、フレームの大きいメガネ、スポーツ新聞と、いでたちは似たり寄ったりです。
いつもの顔をみかけないとオヤジ同志で心配になるとのことです。「病気かいな?(訳:病気だろうか)」と。そのため「競輪場行かんと死んだとか言われるバイ(訳:競輪場に行かないと死んだと言われてしまうよ)」ということで、通勤するように競輪場に出かけます。
5分も乗ったかなと思うとさせぼ競輪場に着きます。競輪場の前は岸壁、駐車場からは、信号機越しに停泊している海上自衛隊の艦船がみえ、競輪、艦船と男臭いエリアでもあります。
*1 佐世保市:佐世保市予算説明資料(平成26年度)
■ 決算に係る主要な施策の成果の説明書より
佐世保市では地方自治法の規定に基づき、毎年度「決算に係る主要な施策の成果の説明書」を作成しています。
国内の経済情勢からはじまり、地元の経済状況について説明されます。
毎年度、不景気のはずですが、その記載はなにか明るい経済状況があるように書かれます。
平成21年度
前年の9月にリーマンショックがあったものの、この年の春ごろには持ち直しの動きが見られるようになりました。ただ、残念ながら、その記載は
前年度よりは幾分改善するものの、自立的な回復といえる状況には至っていません。
とのことです。持ち直しの動きはあったものの"動きがみられた”だけだったようです。
平成22年度
同年度の最終月に311の震災が発生しました。同説明書にもその記載はあり、先行き不透明な状況とするも、地元経済状況は良いとはいえませんが悪くもなく、造船業の業績復活、ハウステンボスの新たな支援会社登場による入場者増と明るい兆しをみせていました。
「地域のことは、地域で決める」
上記の記述は同報告書での地方財政の項目の記載です。地域主権の確立に向けた頼もしい姿勢をみせています。ただ、佐世保から遠い場所での震災は、地元経済にとっては受注を奪うチャンスだったのですが、"お人よし”だったのかチャンスはいかせませんでした。
平成23年度
311の震災の影響は年度を超えて続きます。もちろん、佐世保にもなんらかの影響が懸念されたと同説明書の地元佐世保の経済の状況のくだりははじまります。
(略)その後、持ち直しの動きが続きました。しかしながら秋以降、~
震災の影響は懸念され持ち直すも、期待の秋以降は残念なようでした。
平成24年度
311の震災の影響をまだ地元経済の足をひっぱります。いい材料がないのか地元経済への言及はなく、
(略)我が国経済は緩やかに回復していくと見込まれています。
と、市役所といった地元経済の当事者ですが、日本経済の評論家となっています。
平成25年度
アベノミクスというキーワードを目にして、「緩やかな回復基調」と小躍りしたくなる表現がみられ、景気回復をにおわせる記載がされています。ただ、消費税の引き上げによる駆け込み需要の反動減もあるとし、喜ぶのはまだ早いといさめています。さらには
(略)今後注視する必要があります。
と、まだまだ慎重で、やはりというか地元経済はずっと不景気でした。毎年、期待を感じさせる出だしではじまり、その後は失速という状況が続きます。地元の経済の説明書だけにドラマチックな展開はありませんが、毎年度似たような結末というオチになるのはややフィクションに近いです。
*参考 佐世保市 各年度 決算に係る主要な施策の成果の説明書
【 マチとの遭遇 # 佐世保編 その16 終了 】
お伝えした人:風戸 ケイキ(名物調査員)
注意 情報は2015年4月1日現在のものです。
現地の状況は刻々と変化しています。
現地に行って確認することをおすすめします。
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