その昔、時刻表を愛読書とするおじさんがいました。そのおじさんとは宮脇俊三氏です。九州の経済コンテンツをリサーチするローカライズド(LCD)は、鉄道文学で名をはせた宮脇俊三氏の九州での足取りを追いました。
下記の地図は、当webマガジンでの舞台です。宮脇俊三氏による時刻表2万キロの第3章と第9章で乗線体験をした九州地方です(グーグルマップより)。
人の行った道を行け!
しかし、人の行った道をたどるのもツライ
フロンティア(最初に成し遂げた人)はカッコいいものです。しかし、そのフロンティアの行った道をたどるのもなかなかツライものです。昭和のまっさかりに、ひたすら鉄道に乗り続ける楽しみを見出した人物がいました。乗ってどうするわけではなく、ただ乗るだけのことです。
宮脇俊三(みやわきしゅんぞう)
その人物がその人です。もちろん実在した人物です。ローカライズド(LCD)はとくに鉄道好きというわけではありませんが、氏の九州地方の鉄道路線乗車歴を追ってみました。
■ 宮脇俊三氏の紹介 1
ウィキペディアでも紹介されている実在した人物です。現在の「鉄っちゃん」にみられる鉄道マニアのハシリであり、世の中に鉄道が好きな人の存在を知らしめた人物でもあります。
宮脇氏は自身の鉄道路線への乗車体験を文章にし、出版しました。
処女作:時刻表2万キロ
第2作:最長片道切符の旅
その後たくさん・・・
氏が作家となるまでは、編集者であり出版社の役員さんでした。鉄道好きのキャリアは幼少時からであり、趣味とビジネスは別としていたのか、鉄道に関する本の編集はないようでした。
趣味への情熱はアツく、出版社在職中から国鉄全線に乗車にチャンレンジしていました。ただし、あくまでも趣味としてです。しかし興が高じたのか、その体験は出版という形になり、処女作:時刻表2万キロが世に出されます。
そのときはすでに組織の一員ではなく、独立自営の作家として趣味とビジネスを両立させようとしていたところでした。
そして元編集者という職業から2作目の風当たりの強さも察知しながらも「最長片道切符の旅」を出版します。なお、下記の画像の書籍は同書であり、装幀はイラストレーターの柳原良平氏。
【 最長片道切符の旅 】
■ 宮脇俊三氏の紹介 2
氏は作家です。なかでも自身の旅を文章にする作家のためジャンルでは紀行作家といえます。鉄道はすでに走っており珍しい乗り物ではないもの自身の鉄道への乗車体験を本にするというのは珍しいことから、当時は"奇行作家”でもあったのではないでしょうか。
氏の作家としての研鑽によって、世の中の評価の奇行から紀行への作家への格上げにつながったとみられます。
○ 紀行 × 奇行
鉄道での旅は、事故や天候不順などにあって計画通りにはいかないものです。氏の旅も計画通りいきませんが、たいてい自身のミス(その多くは過度の飲酒による寝坊)によることが多く、そのような失敗談が絶妙にちりばめられ、愉快な読み物となっています。
■ 宮脇俊三氏の紹介 3
氏の愛読書は時刻表です。それだけ鉄道が好きということでしょうが、氏を知らしめた2大著作の出版の目的は、いまいち不明です。ご本人も"バカバカしい”と感想を漏らしています。
結果として売れて、氏も作家として良いスタートを切れたわけですが、出版社の役員さんだけに出版に際して戦略なるものがあったのではないでしょうか。
当の2大著作にはどちらも明確な読者ターゲットなく、目的なく書かれた感もあります。体験をつづっただけという見方もできますが、コンテンツとしては十分楽しめます。
単に楽しいだけではありません。鉄道乗車時の時代背景(当時は国鉄)や沿線地域の状況も垣間見ることができ、地域経済を伝えるコンテンツにもなっているともいえます。ローカライズド(LCD)はこの点を見逃しません。
webマガジン:マチとの遭遇#宮脇シリーズでは、そういった氏の著作である①時刻表2万キロ、②最長片道切符の旅を中心に、あわせて②の取材ノートとして出版された③「最長片道切符の旅」取材ノートを参考に当時と現在はどう変わったのか、と氏の乗った路線をたどってみました。
■ 宮脇俊三氏の紹介 4
人の行った道(正しくは乗った道)をたどることで何がみえるか? ローカライズド(LCD)は宮脇氏のマニアでもフォロワーでもなく、それほど鉄道が好きというわけではありません。地域経済をリサーチする観点からおもしろい材料だと、柄にでもないことを発見しました。
氏が乗っていた1970年代と2010年代の現在を比べてみると、変わったところと変わっていないところがあります。40年たてば変わっているのが当然です。むしろ変わっていないのが異常ではないでしょうか。「変化なし」を「経済成長なし」ととらえることは少々強引ですが、変化がないのもどうかと思います。
人の行った道を行くことによって、地域経済の変遷が少しみえてきます。九州を拠点に活動するローカライズド(LCD)は、氏の乗った路線に乗る価値はあるのでは?と思い立ち、氏の乗った九州の路線をたどることをしてみました。
このシリーズで参考にした資料
①時刻表2万キロ
②最長片道切符
③「最長片道切符の旅」取材ノート
④時刻表
* ①~➂は宮脇俊三氏のコンテンツ
■ 時刻表2万キロの紹介
氏の著作に「時刻表2万キロ」があります。同書は『鉄道の「時刻表」にも愛読書がいる。』の名フレーズではじまり、国内の鉄道(当時は国鉄)を乗り継ぎ、全線完乗を目指します。ちなみに全線完乗とは、国鉄の全路線に乗るということです。同書には当時の九州のすべての路線ではありませんが、氏の乗線の記録があります。
全線完乗を目指す目的は
「自分自身のためですから」
と、カッコよいものです。ただし、意味はわかりません。
ローカライズ(LCD)もそんな氏の九州での乗線体験を追ってみることにしました。我々は氏の跡を追うことで、現在と過去の違いを知ることができるのではないか、あるいは地域の発展を鉄道を乗り継ぐことでみえてくるのではないかと思えました。
決して「おもしろそうだから」ではありません。
氏の乗線は起点から終点までの完全乗車です。一区間だけ乗って、それで”完乗”ではありません。軟弱ぞろいのローカライズ(LCD)は、完全乗車することもありますが、途中、乗車あるいは下車したり、駅の見学にとどめたり、廃線跡を見るだけとしたり、と鉄道の事情もありますが、こちらの事情もあって氏の乗線体験を゛体験”しています。
こちらの事情とは、当時と今の比較であり、あくまでも地域経済のコンテンツを届けるwebマガジン:マチとの遭遇としての役割です。
なお、リサーチ中は鉄ちゃん気分をあじわいました。
時刻表2万キロは14章で構成されています。同書は、宮脇氏の国鉄路線の乗線体験すべてではなく、国鉄全線完乗がせまってきた残った27%の路線への体験となります。
すでに乗線している73%については、スムーズに効率的に乗線できているのですが、残ったほうはそうスムーズにはいきません。スムーズに行かないことが読み物としてのエンターテイメント性をもたらし、読者におもしろさを与えているのでしょうが、乗線していく側およびそれを追っていく者には、楽しみとともに苦痛も感じました。
■ 九州内の時刻表2万キロの乗線ダイジェスト ■
【 九州のローカル線のプラットホーム 】
九州のローカル線のプラットホームにて
ローカライズド(LCD)
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旅とカットソーシリーズ
マチとの遭遇#宮脇シリーズ
製作:ローカライズド(LCD)
リサーチ: 風戸ケイキ/ワリアイト・リョウ
プレス:タシロ
2018
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