■ 働く人の賃金事情
久留米を含む筑後地区はビジネス街とはいいがたく、一方、直線距離で30キロ離れた福岡市は九州地方最大のビジネス街です。
働き口も働く人も多いのは福岡市であり、賃金の多いのも福岡市になります。
製造業を例に平均総支給賃金額をくらべると
- 福岡地区:36万8,880円
- 筑後地区:30万6,528円
距離差:50キロの差
賃金差:6万円
となります。必ずしもビジネス街である福岡地区のほうが高いというわけではなく、業種によっては筑後地区のほうが賃金が高くなる業種があります。
サービス業
- 福岡地区25万2,837円
- 筑後地区28万4,656円
宿泊業・飲食サービス業
- 福岡地区23万2,904円
- 筑後地区25万3,333円
わずかですが運輸業・郵便業や生活関連サービス業・娯楽業なども福岡地区よりも筑後地区のほうが高くなります。ただ、仕事はビジネス街だけではなく、人や会社のあるところにあります。
*参考 福岡県:平成26年度福岡県の賃金事情
久留米/くるめ
20160101現在
■ ゴム 16
ゴム3社が町の経済をリードしていたとき、地元の下請メーカーは地元のゴム3社以外との取引はご法度でした。ゴム製造業にかぎっては域内でやっていけたのです。
アサヒコーポレーションの倒産後は、そうはいってられなくなります。実際、ゴム以外の製品に活路を見出すメーカー、ヨソの工場に転職していく工場勤務者など、会社や人がゴムや地元から離れていきます。
1998年3月 会社更生法申請 負債総額 1300億円(*1)
それまで同社のみと取引していたある地元の下請メーカーは、同社倒産で販売先を失ってしまいました。
同社倒産直後から他地域の同業他社メーカーへ営業をはじめます。営業担当は、倒産企業からやってきた社員でした。熱心に営業に回ってもなかなか受注はありません。
それでも努力と製品の良さが認められて、同社倒産10年後に受注となりました。
地元ゴム企業の経営者も代替わりしています。先代から引き継いで、そのまま事業を継続している会社もあれば、先代のお客を切って新規開拓に精を出す会社もあります。
事業を継承しない親族もいます。ちなみに"地元企業”であったブリヂストンの大株主は金融機関などをのぞくと親族あるいは親族関係者の法人となります。
先代から事業を引き継いだある会社は、そのまま事業やお客を継続している会社は先細りしているといいます。
その経営者は、いまはゴム関係の製品を扱っているが10年後はゴムのゴの字もないかも、とのことです。
同社の主要取引先は、地元久留米のゴムメーカーではなく、久留米よりもゴム製品を多く出荷している町の企業です。同社は補助金を活用して新製品の開発に挑んでおり、下請けからの脱却をはかろうとしています。
そうは簡単にいかないが、いつまでも値段の決められない下請けではいたくないとのことです。
*1 帝国データバンク
【 アサヒシューズ(旧アサヒコーポレーション) 】
■ 久留米大学病院 3
「久留米大学」は立地する町の市名の付いた大学ですが、市立ではなく私立です。
前身は医学専門学校でした。ブリヂストンの創業者一族によって寄贈され、設立されました。寄贈されたのは1万坪の土地と大学本館です。
戦後に文系学部を置いて理系は医学部のみの総合大学となります。現在、旭町キャンパスとなっている場所から歩いていけるほどの距離にブリヂストン久留米工場があり、ブリヂストンの関連会社:ブリヂストンアリーナが運営するスイミングスクールがあります。
同大学が運営する大学病院は、最先端の医療研究だけでなく、地域医療にも貢献しています。その一つがドクターヘリの運行です。
その出動範囲は久留米市にとどまらず、もっとも遠いところで70km、ヘリコプターで21分の場所となります。なお、ドクターヘリは消防機関からの要請に基づいての運行ですので、個人からの依頼には対応していません。
あわせて搬送にかかる費用の個人への負担はありません。
コンビニのおばさんの証言:けっこう、飛んでますよ
このドクターヘリ、遠くからそびえたつ同大学病院がよくみえるコンビニの女性店員(推定年齢30代後半)によると、出動回数は多いとのこと。「けっこう」の度合いは、彼女の感覚です。
【 久留米大学病院 】
■ 久留米リサーチ・パーク 3
- 31.2億円 久留米リサーチセンタービル
- 4.2億円 福岡バイオインキュベーションセンター(F-BIC)
- 4.6億円 福岡バイオファクトリー(F-BF)
各施設の総工費です。研究開発型企業を入居させており3施設4棟で全121室、そのうち18室の空きがあります。
2015年5月現在で入居率は85.1%です。家賃なども広さによって14万~28万円と幅があります。
リサーチ・パークは研究開発型の企業が多数入居することで一体となった支援と育成に取り組み、またそのような企業が多数集積することで、町にビジネスが育っていくことに目的があります。
同社の運営する施設に入居する事業者には、KRP側からすると手厚い研究支援、入居する側からするとそうでもない研究支援を提供されています。提供者と受益者で感度がちがうのは仕方ありません。
現在、空き室を埋めようと同施設は、新規入居者は3年に限って、家賃などの大幅ディスカウントがされています。
100㎡ 28万8,000円のところを20万8,000円に
50㎡ 16万2,000円のところを9万9,900円に
さらに敷金不要です。チャンスといえばチャンスですが、家賃をディスカウントしなければならない施設への入居とはいかがなんものでしょうか。
【 福岡バイオファクトリー 】
■ 田主丸 6
工場が多ければ、それだけ就業機会も増え、そこで働く人の収入もうるおいます。
町にとっては法人市民税や固定資産などの税収も見込めたのですが、市町村合併によって久留米市に吸い上げられるようになりました。
町に落ちていた税金が市町村合併で、すべてが町へ落ちなくなったのは残念です。
田主丸町の製造業は、久留米市の主要産業であるゴム産業よりは小さいものでした。市町村合併前の2000年の従業者数と製品出荷額は以下のとおりです。(*1)
田主丸町 | 982人 | 161億円 |
久留米市のゴム産業 | 3,882人 | 682億円 |
当時はゴム製造業に勢いがあったということです。その後、自動車に勢いが移り、地元市役所もダイハツに目を向けるようになります。
2013年には、地元土地開発公社は同地工業団地の近隣の農地を取得し、農地転換に必要な手続きをすすめ、ダイハツ九州の事業拡張に一役買っています。
エンジンの組立工場ではなく、エンジンの開発拠点がやってくるということで地元の期待は大きいものです。
合併前に計画された第4次田主丸町総合計画(2002年3月)では、地元に設立されたシルバー人材センターは設立当初より登録者数が徐々に減少していることが懸念されていますが、2014年の現在、同町では高齢者がいまだ現役で仕事に精をだしています。
*1 旧田主丸町:第4次田主丸町総合計画 久留米市:工業統計
■ つばき 1
久留米にはもう一つ、植物&世界の施設があります。その施設は「久留米市世界のつばき館」、オーナーは久留米市です。
久留米市はつばき&世界の名にもふさわしく、2010年に国際ツバキ会議の会場に選ばれました。
つつじセンターとつばき館の距離は徒歩で30分弱、距離にして2kmほどです。
つつじセンターはつつじの保存・育成が目的でしたが、つばき館はツバキ・つつじ類の保存・育成とつばきのみに限りません。ちなみに、つつじは花、つばきは木です。
久留米市の花:つつじ 久留米市の木:つばき
久留米市の花はつつじ以外にコスモス、同じく木は、櫨、くろがねもち、けやき、くすのきと"たくさん”あります。また、つばきを地元の木とする自治体も多くあります。
■ つばき 2
つばき館のオープンは2014年3月、敷地面積2,439㎡、2億1,600万円の整備事業でした(*1)。
そのつばき館から400mはなれたところに久留米つばき園が存在します。同園のオーナーは久留米市、オープンは2008年3月、用地取得費などの事業費は総額4億800万円です。
こちらの公園の年間計画来場者数は40,000人ですが、包括外部監査人から以下のように指摘されています。
過去に3度、休日も含めて現地視察に行ったが、利用計画にある40,000人/年の利用者数があるとは考えづらい状況であった。
久留米の地元中心地から離れた畑や田んぼのひろがる農村地帯の徒歩30分圏内に、つつじやつばきに関連した投資が25億4,891円ほどなされました。それでも新国立競技場(もめる時)の総工費の1/100です。
いずれの 施設も地域活性化が目的ですが、来場者数からして1㎡あたり31,500円の投資は妥当であったかどうかはなんともいえません。
* 1 久留米市市長記者会見プレスリリース:20140224
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