マチとの遭遇 九州編

@久留米 

久留米 その7

2021年08月09日 11:15 by wariaito
2021年08月09日 11:15 by wariaito

■ 土地の有効活用 

 大きな川があると、それを境に行政区が分けられます。一級河川である筑後川もその例です。

 久留米市の対岸は佐賀県となっているのですが、一部、対岸の土地も久留米側の行政区になっていたり、その反対となっている土地もあったりと、いわゆる「線引き」が複雑です。

 線引きが複雑になるのは、今と昔では川の位置が違うからです。いまでも筑後川は蛇行しているのですが、昔はもっと細かく蛇行していました。

 そのため河川整備をして直線とまではいきませんが、水害をおこしにくい川としました。線引きが複雑になるのは、蛇行していた昔の名残です。

 以前、地元市議会で久留米市の職員が地元に住んでいないと指摘がありました。地元久留米市よりも筑後川の対岸の鳥栖市のほうが固定資産税は安いため同職員らはそちらに住んでいたということです。

 ちなみに2015年1月時点の固定資産税の税率は両市ともに1.4%ですが、都市計画の税率は久留米市0.3%、鳥栖市0.2%となっています。土地の有効活用も難しいものです。

【 一級河川筑後川 】

マチとの遭遇 九州編 

久留米/くるめ

20160101現在

制作:ローカライズド(LCD)

 

 

■ B級グルメの聖地久留米 7

 地元が人口あたりヤキトリの店舗数で日本一であることに気づいたのは2003年でした。その年に地元で2つの宣言がなされます。1つは「とんこつラーメン発祥の地」、もう一つは「焼きとり日本一」です。

 ヤキトリ日本一については、愛媛県今治市、北海道室蘭市も宣言しており、乱立状態となっています。

二日間で7万本
地元開催のヤキトリフェスタにて

 地元のヤキトリを全国に広めるために「久留米焼きとり日本一フェスタ」を開催しています。同フェスタは毎年開催され、2014年9月までに12回開催されました。

 フェスタは年を追うごとに盛況になり、会場の広場はケムリでもうもうとなります。二日間開催であった2013年のフェスタでは7万本のヤキトリを食べつくしました。

 このフェスタはB級グルメが認知される前の2003年9月に第1回が開催され、このノウハウが後の全国にひろがっていくB級グルメのイベントにいかされたといわれています。

【 やきとりフェスタ会場 】

■ 合併ビフォーアフター 

 同地の近隣市町村は合併を選んだわけですが、町にとって競争力がおとろえた面は否定できません。

 久留米市の市町村内総生産額を合併前後で並べると以下のようになります。(*1)   

合併前 2004年度 9,567.4億円
合併年 2005年度 9,431.4億円
合併後 2006年度 9,162.9億円

 ちなみにこの間、自県福岡県の県内総生産額は、多少なりとも「増」でした。

 2007年度に9,678.2億円とピークとなるも2012年度まで2年度ほど合併年度の市町村内総生産額を超えることはありましたが、見た目には下り坂です。

*1 福岡県:ふくおかデータウェブ

■ 九州ちくご元気計画 1

 九州ちくご元気計画は、一人の敏腕プロデューサーが地元の若者、生産者、事業者をまきこんで地元の素材をデザインやマーケティングを通して、地場産品の流通拡大につなげたプロジェクトです。

受賞実績
 2011年度 グッドデザイン賞日本商工会議所会頭賞
受賞対象名
 雇用創出を核とする地方活性化プランのデザインワーク

 地場産品にカッコいい+シャレた、このところの言い回しではクールなデザインを加えることで、地域の埋もれた良質な素材が陽の目を見るという取組です。

 この取組は単に作って売るのではありません。一過性に終わらせないために作って売る仕組みを学ぶことに特徴があります。学ぶ=お勉強ですが、純粋にお勉強だけでもありません。雇用の拡大に目的がありました。

■ 九州ちくご元気計画 2

 このプロジェクトによって、線香花火、ドライフルーツ、カフスボタンなど、注目を集めた商品もありました。

 商品イコールビジネスですが、このプロジェクトは学びつつビジネスをする取り組みでもありました。

 講師に著名デザイナー梅原誠氏を迎え、地元の産品を売れる産品にします。もちろん"残念ながら”の商品もあります。

 地元のことは地元の人がよく知っています。ただ、デザインやマーケティングとなると地元の人にはスキルがないため専門家の力を借ります。

 商品本来の良さ、ブランディングのうまさもありますが、なによりも販売しようとする姿勢が同事業の成功につながっているといえます。

■ B級グルメの聖地久留米 8

 当地はとんこつラーメン発祥の地とされ、久留米のラーメンについては、何冊か本が出版されているほどです。

 有名無名の語り部がいて、ラーメン目当てに観光客がやってきて、ラーメンをビジネスとする会社が存在します。JR久留米駅のターミナル内にはラーメン屋、ヤキトリ屋双方営業しています。

ラーメンは地域資源

 2012年の春に、地元久留米とそのラーメンを舞台にした映画「ラーメン侍」が公開されました。
 残念なことに地元で話題になったぐらいで、興行成績のランキングでは同タイトルを見ることはありませんでした。

 映画はヒットしませんでしたが、地元ラーメン業界のほうは盛況です。昔から盛況という人もいて、ラーメンは景気に左右されないビジネスという店主もいます。

 屋台からはじまった家業も会社組織になるまでのお店もあります。
 ラーメンを食す形態も屋台、店舗とあり、店舗でも専業店、居酒屋と分化します。この点についてはヤキトリと同様といえます。

 地元久留米のラーメン店は「○○の家」といま風の店名もありますが、多くは垢抜けた感はうすいものです。

 単に「○○ラーメン」という店名もあれば、「○○軒」という店名もあり、一見飲食店の店名にそぐわなくもある「○○ラーメンセンター」という店名もあります。

【 ラーメン店 】

■ ゴム 10 

 ゴム製造業は図体がデカイだけともいわれています。久留米には製造業の会社で大企業となるのは5社あり、そのうち3社はゴム3社です。

 働く人や出荷額は多く&大きいのですが、経営としてはスマートとはいえません。

 ゴム製造業は地元内では製造品出荷額が大きいだけに粗付加価値額も大きいのですが、製造品出荷額ほどには粗付加価値額が大きくありません。つまり粗付加価値率は低いのです。

 製造品出荷額では2番手の化学工業が、粗付加価値額ではゴム製造業を抜いており、ゴム製造業の付加価値率の低さが目立ちます。

ゴム製造:28.4%
化学工業:83.1%
 粗付加価値率=粗付加価値額 ÷ 製造品出荷額

 数字はそれぞれの業種の粗付加価値率です。ゴム製造業は化学工業にくらべると1/3弱になります。

 久留米の製造業全体の粗付加価値率は40.6%ですので、地元のリーディング産業のゴム製造業には知恵を使ってほしいところです。
 ちなみに従業員一人あたり製品出荷額は以下のとおりです。

ゴム製造業   2,855.7万円
化学工業 1億2,282.7万円

 生産性も大きくちがい、化学工業のスマートぶりが目立ちます。

 久留米には化学工業の事業所は7事業所、そのうち大規模事業所はなく、30人から300人未満の事業所が2事業所、のこり5事業所は30人未満の事業所ですので、みわたせば心あたりのある事業所はすぐにわかることでしょう。

 ■ ゴム 11

 久留米はゴムの町を標榜していますが、直近の工業統計によると市区町村別の製造品出荷額では国内9番手です。

白河市 1,239.3億円 46.5% 5事業所
朝倉市 1,145.5億円 39.3% 4事業所
都城市 1,066.7億円 30.3% 3事業所

久留米市 723.6億円 23.5% 15事業所

* %は市内製造業製造品出荷額にしめるゴム製造業の割合

 各市にはゴム会社の主要な会社があり、白河市には住友ゴム工業、朝日ラバー、朝倉市にはブリヂストン、都城市には住友ゴム工業の各社の工場が立地しています。

 ゴムの町久留米ですが、久留米よりも製造品出荷額は多い町や製造業に占めるゴム製造業の占める割合が大きい町は日本国内にまだまだあるのです。ちなみに朝倉市は久留米市のとなりです。

【 久留米市と朝倉市 】

■ サケ 9  

 「取り上げないでほしい」と、むやみやたらな紹介を拒む蔵元もあります。ソーシャルネットワーク時代は、善意の紹介はブランド低下につながります。

 広告の媒体も選びに選び、パブリシティとして取り上げられる際も慎重に対応します。自分のところには自分のやり方があるとする姿勢は、ブランド意識の高さといえます。

 日本酒の消費、生産量ともに減少傾向にあっても蔵によっては売上を伸ばしている蔵もあります。

 広告やマーケティングで売れたというよりも地道な販売努力によるものです。そういった酒蔵は、日本酒市場の落ち込みは他人事です。

 突然のオーダーがあっても「ハイソウデスカ」とはなりません。それを「偉そうに」と、とらえるのは買う側の大きなカン違いといえます。

 大手スーパーとの取引はビジネスとしては魅力ですが、取引のためには設備投資や在庫や供給量によってはいままでの取引先を切らなければならない意思決定をせまられることにもなります。

スーパーとの取引
知名度の向上
ブランド価値の低下

 酒の専門店、しかも冷蔵庫をそなえて温度管理をしている専門店でなければ品質は保たれず、専門店であっても見極めが必要とのことです。

 飲食店と直接取引する場合でも、燗をつけるのか、冷で飲ませるのか、それによって卸す銘柄も選ばなければならず、売れるからといって売るわけにはいかないとのことです。

 供給能力の限界は、設備にもありますが人材にもあります。単に人手が足りないというだけでなく杜氏のスキルも作用し、酒はボタン1つで増産できるものではないと語ります。

【 旭菊酒造(@久留米市)の旭菊 】

■ 九州ちくご元気計画 3

 概要は以下のとおりです。 

実施主体 筑後地域雇用創造協議会
構成団体 福岡県、久留米市など周辺15市町村、JA、商工会、商工会議所

採択された事業と実施年度および委託費

1 パッケージ事業 2009 2010 2011 2億6961.4万円
2 実現事業 2010 2011 2012 1億1006.7万円
3 実践型事業 2012 2013 2014 3億9482.1万円

 

 これら3事業はパッケージ事業の2009年8月からはじまり2015年3月の実践型事業まで続く。重複する期間はあるものの事業期間は5年8ヶ月、総額7億7,450万円の事業となる。事務局は久留米リサーチ・パーク棟におく。雇用創出数は1.パッケージ事業、386人、3.実践型事業 155人(2014年度分は未確定)、2.実現事業は1.パッケージ事業による支援を通じて育成した人材等を活用するという事業趣旨のため雇用創出数は0人、雇用創出数は合計541人となる。なお、この541名はすべて正規雇用とはかぎらない。

参考:福岡県広域地方振興課

■ 久留米の上場企業 梅の花 4

 国内の縮小する胃袋市場をかんがみて、多くの外食産業がするように同社も海外展開をします。

 タイのバンコクに「梅の花」を2013年9月に出店しました。"オーセンティックカイセキキュイジーヌ”を提供する現地合弁会社は、日本よりも日本的な店構えです。

 日本的な飲食店の海外進出が日本文化の輸出につながることに期待されます。一方でニュージーランド産の牛肉などを輸入販売する会社と提携し、福岡市にグリル肉を提供するレストラン事業をはじめます。

 B級グルメの町に本社を置くも、梅の花のランチは2,000円からと非B級グルメ志向です。あわせてそれほどご当地感もありません。

 久留米の企業であることを感じるのは、出店エリアが多少西日本に偏っている程度と、セントラルキッチンが地元にあるぐらいです。それが会社の方針であり株主の意向かもしれませんが、ややさみしい気がします。

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